日本財団 図書館


 

052-1.gif

選評
師走も慌ただしい十四日、大阪からドサッと書類の束が届く、平成柳多留第四集の句稿約五千五百だ。「活気」という出題は過去に何度か目にし、作句に選句に苦心したり、楽しく語りあったり、走馬灯のようだ。
選は三、秀逸十、佳作二百と厳しい構成。粗選に二日を要し、折しもテレビ、ラジオは南米ペルーの反政府人質事件の特報に喧騒を極める。その昔、ダッカの日航便乗っ取り事件と重なった苦い思い出がよぎる。高度情報化時代と複雑な国際事情が縺れ合って解決は、容易ではなさそうだし、数百名に及ぶ人質の安否も不明だ。
さて、選句の第一関門は文字で、日本語が万葉以来のかな文字に漢字を交じえた現代の用字は戦後この道の権威が苦心の末の産物で世界に誇る文字といってよかろう、それに欧風のカタカナが鋭く光って面白い。川柳は現代かなづかいと常用漢字が基本である。投稿者の何パーセントかはこの篩にひっかかる。漢字にルビを付したものは選者を侮辱すること甚だしいし、中には海豚(ふぐ)とあり、これには噴きだしてしまった。要は正確な国語辞典を机辺に備えての作句を心掛ける事だ。固有名詞の特殊なものは割愛し、商品名は一切採用しなかった。ただし被災地神戸に関わるものは、その復興の願望を込めて大いに頂き、嫁さん、赤ん坊など明るい題材は特に光った、佳作と秀逸、特選の位づけは執行部の方針に従ったが大いに疑問のある所で、文部大臣奨励賞を選抜するための方式だとすれば、他に良い案がないであろうか。昭和六大作家の一人岸本水府は常に句に位づけや賞品を与えるのは川柳の冒涜と言った正に至言だ。関東以北では現在もこの江戸川柳以来の一旬十六文の懸賞川柳に血道をあげての大会が横行している。川柳界のためには、一度立ち止まって冷静に足許を見直してみては如何だろう。
なお、俗に通り句に名句なしという諺があり、合議の末の可も不可もないものが文部大臣奨励賞に選ばれて、大方の拍手を浴びるが、これもまた議論のあるところ、これが刷り物になった時、皆さんに買って頂くわけで誤植などあってはならぬ、従って選者も必死に頑張って選句に評に万全を期したが光栄と共に全神経をすりへらし正にくたびれたと告白してこの稿を終わる。
川俣喜猿

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION